学会趣旨・会長あいさつ

「わたし(たち)は何者なのか、どこからきて、どこへいくのか」これらは、いにしえから、づっと探求されてきたことです。過去と未来、世界という時間と空間、そしていま、ここでの当事者としての私があるわけです。教育はそれらをつなぐものだと思います。

 「関係性の教育学」(Engaged Padagogy)という術語は、米国の黒人女性でポストコロニアリズムのフェミニズムを礎とするベル・フックスによるといいます。平和や環境運動で知られるベトナム僧であるティク・ナット・ハン師による「行動する仏教」には同様の英語があてられています。日本語にしにくい言葉です。また、ベル・フックスの著書には自由の実践としての教育という言い方も散見します。

 とてもたくさんの「教育」に関する団体があります。当初、関係性の教育学会(EPA)の創設にかかわった方がたの多くは日本で英語を教える英語話者の人たちでした。PGL, Peace as a Global Language という会合も、同時期に、はじめられました。そちらは英語話者の人たちの集いのようになり、続いています。EPAは、研究大会の開催とジャーナルの発行を軸に翻訳書や語学のテキストを発刊することも手がけてきました。

 関係性の教育は、さまざまに読み解くことができるでしょう。本来、教育は社会への参加によってつくるコミュニティのものです。ユネスコは Learning to Live Together 、すなわち共に生きることであるともいいます。社会とのかかわりを意識化するなかで、自分は自分らしくあることができるのではないでしょうか。人びとは、学びあうことで、つながり、ちからを得ることができるのです。そして、なによりも、それは、よろこびに満ちています。同時に、何らかの関係をもつというのは、きびしいことでもあります。そこには、ややもすると旧来の研究では、問われなかった価値やストーリーが横たわっています。

 フェミニズムから出発した関係性の教育は、世界を席巻する英語という言語を教える教師がみずからの仕事を批判的にとらえることにながりました。さらによりよい社会のために、人びとがちからをあわせるためのものとなるでしょう。

 社会のいとなみとしての実践・運動、教育、研究をつなぐこと、わたしたちの世界を照らし、皆で、すすむべきことがらをつくりあげていく仕事ができたらよいと思います。人びとの願いもそれぞれでしょうし、対立も起こります。それらをコミュニティとしてのりこえていくプロセスが重要です。プロセスを共有し、仲間とともに仲間から学ぶEPAに、会員のみなさんの一人ひとりのちからが、結実されることを願っています。

(淺川 和也)                                                                                                 EPA TOP

創設名誉会長(Founding President)からのメッセージ

関係性の教育学会へようこそ。私たちの学会には、学者だけではなく、翻訳家、学生、世界各国で様々な活動をしている人々が参加してくださっています。私た ちは、教育と学習は絶えまなく続く相互交換的過程であると思っています。だから、私たちの研究をコミュニケーションとしてだけではなく、権力に抵抗するた めの道具として使いたいと思っているのです。フェミニスト教育者であるベル・フックスの言葉を借りるならば、私たちは周縁から出発して、平和と尊敬が広が る大海へと注ぎ込む寛容で多様な大きな流れを構築しなけれなならないと思うのです。大自然とともに歩む民主主義という新しい概念を私たちはつくろうとして います。この建設作業に一緒に参加してみませんか。 学会では、学会誌『関係性の教育学』を発行しています。また、「地球語としての平和」大会ののスポンサーもつとめています。意識高揚、教育の変革、新しい コミュニティづくりなど、私たちと同じような目的をお持ちの方々や団体の方々と一緒に活動をしていきたいと思っています。それでは、みなさんとお会いし、 語り合える日を楽しみにしております。

(バーバラ・サマーホーク)

 

関係性の教育とは

「関係性の教育(Engaged Pedagogy)」は、ベル・フックスによって提唱された概念(教育学)です。ベル・フックスは、黒人フェミニストとして、文化批評家として、フェミニズムや黒人女性、人種差別の問題、文化論などについて、これまで40冊あまりの著作が出版されています。『とびこえよ、その囲いを自由の実践としてのフェミニズム教育 ‐ 自由の実践としてのフェミニズム教育』新水社(Teaching to Transgress—Education as the Practice of Freedom—)のなかで、知識詰め込み型の教育を鋭く批判し、「自由への実践としての教育」の再生を求め、「関係性の教育学」を提起しました。「関係性の教育学」は、『被抑圧者の教育学』で知られるパウロ・フレイレの教育理論や、既成の学問への批判と学習者のエンパワメ ントをめざすフェミニズム教育学がもとになっています。くわえて、アメリカで黒人女性として生きるフックスには「多文化主義」とは何か、教育をとおしていかに社会と関わっていくべきか、を問いかける思想が脈々と流れています。関係性の教育には「境界を超え」「変わる」勇気が得られ、教え・学ぶ者がともにつくりあげる(engage)場としての教育の可能性を見いだすものです。(2010.9.1)

EPA TOP